腰椎椎間板ヘルニア Case1

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私の勤める病院は急性期病院で、リハビリは入院担当と外来担当に明確に分けて仕事をしています。

特に整形分野は、プロサッカーチームのチームドクターが専門医を務めるだけあって県内はもちろん県外からも通院する患者様がいるほど有名となっています。

そのため、特に小~高校生のサッカー選手は毎日のように診察に訪れ、リハビリ科に回されることがほとんどです。

そういうわけで、今回はサッカー選手の症例になります。

Patient proile

・高校2年生

・県プロチームのユースに所属

・ポジションはセンターバック

・サッカーは幼稚園からこのプロチームのクラブでプレー

・口数は少ないが根は良い子で受け答えもしっかりしている

・受診の一か月前に腰部に違和感が出現し、治ると思ってプレーしていたがまったく変化せず続いたため受診してきた。

・整形外科医からはヘルニアの急性痛として3~4週間の運動休止とリハビリを指示された

自覚的評価

診断名:腰椎椎間板ヘルニア

画像所見:MRIにて、L4-5に軽度のヘルニア像がみられる。腰椎分離症の所見はみられない。

疼痛尺度:NRSで6~7

疼痛の種類:ズキっとくる それ以上曲がらない感じがする 広がりはなく、ピンポイントである

疼痛増悪因子:キック動作で出現し、運動量が上がると運動後に痛みが残存する。座位保持(授業中)でも出現する。

疼痛軽減因子:安静臥位、立位保持で痛みなし、夜間痛なし 

理学療法評価

自動運動:立位前屈で出現、回旋や側屈を含む前屈ではむしろ軽減する

仙腸関節に対するSpecial test:すべて陰性

Kemp test:陰性

Spring test:下位腰椎にPA可動性低下++、頭側可動性低下++

股関節、胸郭は柔軟性が非常に乏しい 自覚あり

思考的治療:L4-5に対して、L4を頭側に滑らせるように誘導し前屈させたところ疼痛なく全可動域に渡って前屈可能であった

治療

・伏臥位でL4-5に対して頭側すべりのモビライゼーション GradeⅢ 60秒×3セット

・立位で前屈に合わせてL4頭側すべりのモビライゼーション MWMs 6回×3セット

・自主トレとしてタオルを用いて上記のセルフモビライゼーションを指導

考察

今回の症例は、診断名は「腰椎椎間板ヘルニア」でリハビリオーダーとなりました。

たしかに、疼痛箇所と一致するように画像上ではヘルニア像がみられていますので、画像上の診断名は腰椎椎間板ヘルニアとされてもおかしくない症例でした。

しかし、椎間板ヘルニアであれば下肢に何かしらの神経陰性兆候がみられるはずです。今回はそれが皆無であったことがポイントだったと思います。

そのため、早い段階から椎間板ヘルニアは否定的に評価を進めていました。

もちろん急性期の椎間板ヘルニアでは腰痛がメインになることもあると思うので、いちおう安静時痛や全方位への動作時痛、夜間痛の有無を確認しています。

前屈症状のみであったため、成長期のサッカー選手に多い「腰椎分離症」も優先順位を下げています。椎間関節障害や初期の分離症では画像に写らないことも多いため、必ずチェックはするようにしています。Kemp testを挟めばオッケーで短時間で評価できるので時間ロスにはなりません。

また、座位保持で出現するとのことだったので、それに当てはまる仙腸関節障害も評価しました。

仙腸関節障害は多くの評価法がありますが、一つだけ実施して否定すると見落としに繋がる経験があったため必ず複数行うようにしています。これもすべてにおいて痛みは誘発されなかったため、否定的でした。

症例は前屈の最終域のみで疼痛を訴えており、その範囲は非常に限局的です。また、思い当たる外傷の受傷歴やチームで偏ったトレーニングを実施したということもありませんでした。

急性痛を除外し、診断名が付くような疾患も除外された…

最終域で、限局した範囲の疼痛、ということで「腰椎の副運動が制限されたことによる関節機能障害」ではないかと考えました。

そこで思考的に当該関節の頭側すべりという副運動を誘導した状態で前屈してもらったところ、痛みは完全に除去されたと言われました。試しに尾側すべりに誘導したところ疼痛は復活しました。

そしてL4-5の頭側すべりの改善を治療としてSNAGsを実施し、自動運動痛が完全に除去されたためセルフSNAGsを自主トレに指導してリハビリは終了しました。

2回目に来院されたとき、疼痛はNRS1程度まで軽減していました。

チームコーチと相談し、ジョグと近距離のパス練習から開始となったとのことです。

もともと柔軟性に乏しく、今回の症状も腰椎に頼った動きが多くなった結果、軽度の炎症から副運動低下に至ったものと考えます。そのため胸郭と股関節の柔軟性を獲得させ、それらを使った運動学習を進めるところまでが今回の症例のリハビリになるかと思います。

当病院の整形外科医を私は尊敬していますし、とても信頼しています。しかし、多忙のためどうしても画像に頼った診断名になることも多い印象です。先生もリハビリを信用してオーダーを出してくれるため、こちらでこういう「画像上での診断名と症状が合致しない症例」を拾っていけたらいいと思っています。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

また次の症例でお会いしましょう。

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